トラブル発生は、あわてない、あわてない
仕事場で、とてつもない量のノルマや仕事を課せられた! 朝から晩まで家事や育児にてんてこまい! 時間はないし、やらねばならないことが山積み。ギャーッ! と叫びたくなりますよね。「でも私がやらなきゃ! すぐやならきゃ! 今やらなきゃ!」。即決即断、そのフットワークの軽さは素晴らしいのですが、叫びだしたくなるほど忙しい時によく効く、効率をグン! とUPする魔法のキーワードをお教えしましょう。
それは「あわてない、あわてない、ひと休みひと休み」です。これはアニメ『一休さん』の名台詞です。同じことを日本の古いことわざでは「急がば回れ」と言い、急ぐ時・大変な時ほどハイリスク・ハイリターンな方法を選ばず、ローリターンでも安全確実な方法を選んだほうがかえって早いという教えです。
急いでいる時ほど気が焦り、細部の検討やリスクヘッジがおろそかなまま見切り発車。結局、目的やコンセプトを誤解したまま作業を進めてやり直しになったり、思わぬところでトラブルが発生してスケジュールに間に合わなかったというのはよくあることです。
何か緊急事態が発生してにわかに忙しくなった時ほどハイテンション状態を一度鎮め、頭と心を冷静にして「目的や方法の再確認、作業内容やスケジュールの再確認、どこにリスクがあるのか、他にもっと効率的な方法はないのか」などを検討しましょう。時間がない時ほど「そんな暇はない!」と考えがちですが、ここで時間をかけておいたほうが、後々トラブルや課題が発生するたびごとに作業を中断して対策を練る、誰かに確認や相談をするよりもよほど時間が短縮できます。
緊急事態が発生したら、まずお湯を沸かし、コーヒーかお茶を入れて。それを啜りながら、5分や10分と検討する時間を決めた上で、今後の作業計画やスケジュールをじっくり落ち着いて練りましょう。
リスクヘッジとは、備えあれば憂いなし
ビジネスの場でよく使われる言葉に「リスクヘッジ(危機管理)」があります。これは、将来的におこりうるであろうさまざまなリスクやトラブルを回避し、それが影響を及ぼす大きさをなるべく軽減する方法論のことです。
リスクヘッジの話をすると多くの人が、リスクをゼロにする方法だと勘違いしてしまいます。しかし08年のリーマンブラザーズショックに端を発して起きた世界的な金融危機、そこから現在まで続く世界同時不況のように、将来どこで何が起こるのか全てを予想することは、神ならぬ人間には不可能です。つまり企業であれ、家庭であれ、刻一刻と変化し続ける現代社会の中で、将来リスクをゼロにすることなど不可能なのです。
では私たちには何ができるのでしょうか?
それは何か不測の事態やトラブルが起きた時に、瞬時に立て直しを図ることが出来るだけの日頃の備えを準備しておくことです。例えば自社へ業界に対する豊富な業務知識、さまざまな事態へのアドバイザーとなってくれる社内外の他分野の専門家や友人知人、分析力、発想力、ビジネススキル、コミュニケーション能力、経済力、フットワークの軽さ、心の柔軟性や瞬発力を日々の暮らしや仕事の中で鍛えておけば、どんな事態が起きようと試行錯誤しながら乗り越えていけるのです。それがすなはち「自分力」の高さというものなのではないでしょうか。
ちゃんと伝わってないじゃないか!
「どうなってるんだ!? あれだけ言っておいたのに先方に伝わってないじゃないか!」。
「すいません。おかしいなあ。先方には、×月×日までに必ず、必要な資料やデータを用意しておいて下さいと伝えて。はい、判りましたと返事をいただいていたのですが」。
きちんと締め切りや作業予定、必要な情報やドキュメントの提出日を相手と打ち合わせて決めておいたのに、当日になると何故かやっていない。ビジネスの世界では、非常によくあることです。
冒頭に掲げた文章で担当者のミスは、大きく分けて二つです。
①先方に伝えて確認と取ったことと、実際に先方がそれをやるか否かは別の要素です。人を信用することは大切ですが、ただ信用しただけで何もしないのはよくありません。
②何かを依頼することだけではなく、その作業がきちんと行われているのか、締め切りには間に合いそうなのか、遅れるとしたら何が原因なのか、遅れそうな場合はどうすれば挽回できるのか、などなどのリスクヘッジ(危機管理)や効率的な作業工程管理の方法を考え、適宜チェックし、ミスや遅れがないようにする。これは人を信用する・しないとは関係なく、ビジネスでは必須の作業です。それをそれぞれ相手の社風や先方の担当者の性格や能力まで加味した上で、それが出来て初めて「自分力」の高いビジネスパーソンと言えるのです。
迅速・正確にすぐメモを取ろう
上司や同僚から何を頼まれたり、指示されたらすぐメモを取っていますか?
「何を言ってるんだ、そんなの常識じゃないか!」。そう怒られそうですが、実はちゃんと正しくメモを活用できている人は案外少ないのです。
指示や説明を受けた時に、たまたま手元にメモや手帳がない、筆記具がない。後で書きこもうと思っていたが、他の用事を言われてウッカリ忘れる。こんなことは論外ですが、手帳に書き込んだり、デスク貼り付けたメモ、パソコンのTO DOリストやスケジュールに書き込んだデータはきちんと活用していますか? 多くの人は、メモや手帳、パソコンに書き込んだ時点で作業が終わったような気になってしまいますが、それは間違い。
まず書き込んだ内容に年間、四半期、月間、週間、一日、午前・午後、各時間ごとに優先順位をつけ、それぞれの予定や案件を柱にしてその隙間をさまざまな作業で埋めていき、それぞれの予定と予定を重要度やワークフローなどで関連づけましょう。また帰社前には、書き込んだ予定や作業を確認し、抜けがないかや進行状況をチェックし、明日の効率的な作業計画を練ります。ここまでして初めてメモを正しく活用していると言えるのです。
最大のポイントは、当たり前ですが書き込んだメモや手帳、パソコンをなくさないこと。スピルバーグの大ヒット映画『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』にこんな場面があります。不老不死の魔力を秘めたキリストの聖杯の秘密を書きこんだ手帳をナチに奪われてしまった父ジョーンズ教授(ショーン・コネリー)をインディ(ハリソン・フォード)が叱ります。「どうして手帳の内容を覚えていなかったんだよ、父さん!」。するとジョーンズ教授が反論、「覚えなくていいように手帳に書き込んだんだ!」。こんな笑い話のようなことが実際にありますから、手帳やメモ、パソコンの管理は慎重に行いましょう。
親切は、回りまわってハイリターン
どんな仕事でも、自分が担当している業務はたった一人で行っているわけではなく、会社全体や部署内のワークフローの一部です。ですから誰かのミスやトラブルを全員でカバーするという状況もよくあります。こういう時に、その人の度量の広さ、仕事のスキル、危機管理能力、行動力など「自分力」の大きさが良くも悪くも出てしまうものです。
自分の仕事で忙しいのに、「仕事はチームワーク、お互い様だから気にするな」とにこやかで頼もしい人。一刻も早く全員で事態の収拾に取り掛からなければいけないのに、「自分がいかに忙しいか。だから手伝えない」と逃げを打つ人、今は一分一秒でも時間が惜しいのに担当者の責任追及を執拗に続ける人。どちらのほうが、みんなの目から“自分力の高い、魅力的な人”に映るでしょうか。
日本には、《情けは人のためならず》という古いことわざがあります。人に親切にすると、まわりまわってその親切が自分に返って来るという意味です。新約聖書『マタイによる福音書』にも、《汝ら、人を裁くな。裁かれざらん為なり。己が裁く審判(さばき)にて、己も裁かれ、己がはかる量(はか)りにて、己も量らるべし》という一節があります。人に対して厳しく寛大でない人は、自分も同じような不寛容な扱いを受け、人に優しく親切な人は自分もそう扱われます。誰かの危機やトラブルを見るに見かねて、親切に助けるだけでも「自分力」が高いのに、さらにその経験を通して仕事のスキルや問題解決能力までUPするなど他人の親切にすることはいいことづくめなのです。
入念な準備とフレキシブルな行動で勝つ
〆25■1 「あぁっ、学校の準備が何もできていないっ! どうして起こしてくれなかったんだよーー!」
「だから昨日のうちに準備しなさいって言ったでしょーーーッ! キーーーッ!」
テレビアニメ『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』でよく見かける光景ですが、これは大人のビジネス社会でも同じことです。
古代中国の戦術指南書『兵法』に曰く、《勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝を求む》。判りやすく言うと、戦いに勝つ軍隊は、情報収集や軍事訓練、武器や食料の手配など事前準備を入念にする。負ける軍隊は、戦地に行ってから考えるという意味です。
例えば、お客様の会社を訪問する場合は、アポイントメントの日付に間違いがないか。他の予定とダブルブッキングしていないか。同行する自社の人間には連絡済みか。持参する資料やデータは過不足ないか。先方への商談では自社でどんな連携をするのか。訪問先の建物の最寄り駅や地図、訪問時間なら電車とタクシーのどちらが確実かなど、さまざまなことを確認しておきましょう。
「そんなの当たり前じゃないか!」と言われそうですが、こうした基本が出来ていない人がいかに多いかということです。
また最も重要なことは、事前に入念に準備を整えたからといって過信しないこと。ビジネス社会では、物事は刻一刻と変化し、その場その場での臨機応変な思考や対応が物をいうからです。そして入念な準備をしているという心の余裕こそが、冷静かつフレキシブルな対応を可能にするのです。
服従・支配するだけの人間関係は疲れてしまう
人は、人と人との関係性の中でしか生きられない、成長できない生き物です。
しかしコミュニケーションが下手な人ほど、相手に対して高圧的に出て自分の意見に従わせる、相手を支配しようとするか、逆に自分の意見や感情を押し殺して相手の意のままに服従するかのどちらかになってしまいます。これは親子、夫婦、カップル、会社、地域社会の人間関係、友人知人、どんな関係であってもそうなる可能性を含んでいます。
自分力やコミュニケーション能力、相手を思いやる心などを駆使して頑張って、頑張って。それでもダメな時は、この人とは相性が悪いのだな、判りあえないのだなとスッパリあきらめて、距離を置くようにしたほうがいいでしょう。
考え方や生き方も違う人間同士なのですから、この世の人間全てと仲良くなろうとしてもそれは不可能ですし、必要ありません。
どんな関係であれ、人と人は対等な関係としてお互いを高めあい、助け合う、尊敬しあう存在のはずです。どちらかが一方的に相手を支配したり・服従する歪んだ関係性になることは辛すぎるし、お互いの心や気持ちを傷つけます。どんな人間関係でも、判りあう・助けあう努力は必要ですが、どちらか一方だけが必要以上の無理を続け、我慢し続ける関係えあるならばいずれ破綻してしまいます。
オッカムの剃刀で、心の無駄毛剃り
何か問題が起きた時や、日々の生活を変えてみたい、自分がいま抱えている課題・問題を解決したいと考えた時に、原因そのものを取り除く、乗り越えるという正攻法ばかりが“正解”ではありません。自分力を鍛える上で、それがあなたの中で優先順位が高くない場合は、迂回する、気にせず今はそのままにしておくという選択肢もあります。
また直接、問題解決に当たる場合でも、同じように正解は一つではありません。
14世紀のイギリスに哲学者で神学者のオッカムという人がいて、「オッカムの剃刀」と呼ばれる思考方法を多用したそうです。これは、《ある事柄の意味を説明できる仮説がいくつもあったのならば、より単純な説明のほうが真実に近い場合が多い》という考え方で、「思考倹約の法則」とも呼ばれています。
日本のことわざにも《下手の考え休むに似たり》という似たニュアンスのことわざがあり、下手(不器用な人)がいくら考えても、時間ばかりかかってたいした効果はあげられないという意味です。
例えば、健康や美容のためにダイエットをしようと考えた時のこと。エステや痩身美容に通う、飽きっぽい自分にも続けられる運動は何かないかといろいろ探し続けたり、カロリーオフ効果があるサプリメントを飲んだり、テレビを見ながらでも簡単に続けられる美容器具を高いお金を出して買うよりも、最もシンプルでなおかつ効果があるのは、「入力(摂取カロリー)よりも出力(運動)が上回れば自然に痩せる」という考え方です。
困った時、悩んだ時は、あまり難しく考えず、直感的にシンプルな答えを選ぶのが正解な場合もあるのです。
感謝や見返りは期待しない
日々の育児や家事、あるいは仕事で誰かに何かをしてあげる時、つい感謝の言葉や見返りを期待していませんか? あなたはお礼や見返りが欲しいから、そうしているのでしょうか。違うと思います。
仕事はチームワーク、次は仕事仲間に自分が助けてもらうかもしれないから“困った時はお互い様”という気持ちなのではないでしょうか。あるいは旦那様や奥様、子供たちは大切な家族で愛しているから、日々の世話や家事を喜んでしているのではないでしょうか。
それなのにお礼や見返りを無意識にでも求めてしまうと、期待はずれだった場合、「私はこんなにしてあげているのに」「私だって大変なのに。誰も感謝してくれない。なんでいつも私だけが貧乏くじを引かなきゃいけないの?」と相手を恨む心が芽生えてしまいます。もともとは相手に好意を抱いているから始めたはずなのに、いつの間にか違う方向に行ってしまっています。
何かをしてあげて相手が助かった、楽しそう、イキイキしている。それを見て自分の心が何だか温かくなる、それだけでいいではありませんか。誰かに必要とされる、頼られることは、人間にとって大きな喜びだからです。それに相手は、本当にあなたに感謝していないのでしょうか。言葉にするのが照れくさいだけで、表情や言葉、あなたへの接し方で無言のうちに「ありがとう!」のメッセージを伝えていませんか。実は、相手の気持ちを無視していたのは自分のほうだったなどということもあるかもしれません。見返りを期待する気持ちで心の目が曇り、“本当”が見えていないのかもしれません。
「ほどほど。まあ、いいや」も素敵な自分力
仕事や家事、育児、趣味、地域社会への関わりに日々を忙しく充実して生きている上に、もっと素晴らしい生き方をしようと自分力を鍛えようとしている方。そんな方々は、頑張る方法はもうご存知のはずですから、自分力の一つとして「ほどほど」「まあ、いいや」を身につけましょう。
日本には、 《人事を尽くして天命を待つ》ということわざがあり、意味は、できる限りの努力をしたら、その結果はもう運を天に任せるしかない、どうなるかは誰にも判らないという意味です。
しかし頑張る人は、さんざん努力をして疲れ切っているのに、結果が出るまでもつい気をもんでさらに出来ることをしてしまう努力型の真面目な方です。
それは素晴らしいことなのですが、人生すべて全力投球ではヘトヘトになってしまいます。力を入れるべきところと、いい意味で手を抜いて休息モードでOKなところのメリハリのコツを覚えましょう。
そしてもう一つの重要なキーワードが、《過つは人の常。それを赦すのは神の業》。これは西洋の古い格言ですが、人間は過ちを犯しやすいものであり、何度でも失敗するものだ、神様は寛大な心でそれを許して下さるという教えです。仕事や家事、子育て、人間関係、自分力アップへの挑戦、etc、最初から完璧な結果を出すのは不可能です。ちょっとくらいの失敗をしても、また何度でも挑戦すればいいのです。失敗するからこそ反省し、謙虚な心になり、努力を重ねる充実感や達成感を知り、その積み重ねで人間は大きく成長するのです。「まあ、いいや」の先には、こんな素晴らしい日々が待っているのです。